トリコじかけになる

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14歳のリアル『リリィ・シュシュのすべて』ネタバレ感想

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9月までに夏っぽい映画を何本かみようかな~と思っていたのですが、全然暑くないので雰囲気でない!というか寒い!急な温度の変化で体調くずしそう。皆さんもお気をつけてくださいね、どうもアンヂです。

 

『リリィシュシュのすべて』を観ました。2001年公開。監督・製作 岩井俊二

 

観終わったあと、心にどーんとしたものが乗っているような、穴があいているような気分になった。岩井俊二監督は14歳の心情をあまりにもリアルに描いている。なので少なからず嫌悪感を抱く人もいると思う。

 

 

 

 

・あらすじ

 ウェブサイト上でBBSの形式を利用して、一般参加者との対話の中から物語を展開させた岩井俊二のインターネット小説から生まれた衝撃の問題作。「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」「スワロウテイル」の岩井俊二監督が、14歳の少年少女たちの心の闇、焦燥、痛みを鮮烈に描き出す。
 中学生になった蓮見雄一は同じクラスの優等生・星野修介と仲良くなる。夏休み、2人はほかの仲間たちと西表島へ旅行に行く。そこで星野は2度命の危険にさらされる。そして逆に、島で知り合ったばかりのバックパッカーのあっけない死を目の当たりにする。旅行から戻った星野は変質し、番長を倒し自らその座に収まり、蓮見はいじめの対象になっていく……。学校での星野の凶悪さは常軌を逸し、その仕打ちに傷つく蓮見は、唯一の慰めとなっていたカリスマ的女性アーティスト“リリイ・シュシュ”のファンサイトを立ち上げ、そこで痛々しい心情を吐露していくのだったが……。岩井監督自身「遺作にするなら、これを遺作にしたい」と語る渾身の一作。

映画 リリイ・シュシュのすべて - allcinema

(オールシネマ様より引用)

 

 

・感想

 主人公の蓮見雄一より星野修介に注目してみてしまった。それは私にとっては意外なことだった。中学生のとき、私もいじめを受けていたから。いじめられっこのほうにシンパシーを感じてもいじめっ子のほうに気持ちがいくとは思わなかった。

 

作中で星野ほど孤独な人物はいない。成績優秀、お金持ちと誰からも羨望と嫉妬の目でみられた星野は心に傷を抱えていったと思う。沖縄旅行で二度の命の危険、冒険家・高尾のあまりにもあっけない死を見た彼は生き抜くには強さが必要と本能にも似た強迫観念を植え付けられたのだと思う。そして一家離散という現状。

 

二学期がはじまり、本能の赴くままに自らの世界を変えてしまった星野。そこでは「力」「暴力」が全て。そうした世界を作ることによって自らも救われると思っていたのだと思う。しかし、現実は彼を救ってはくれない。

 

その後、彼は「青猫」というハンドルネームでリリフィリアに参加する。「エーテル」を信じるもの同士が募るこの空間で星野は最も救われていたのではないか。

 

そして、同じ「エーテル」を信じる同士、蓮見のことをいじめのターゲットにしてしまう。本来分かり合えたはずの相手のことを自ら遠ざけることは悲しい。憧れていた女子・久野への暴行事件にまで関与する星野。彼が頼れるのは彼だけ、彼にとっての聖域はリリフィリアだけ。みていて息が詰まるほどにつらい。

 

田園で叫ぶ星野、流れるリリイ・シュシュ。そして一つの事件。

 

星野を刺した蓮見。これがいじめへの復讐と捕らえると、この映画はなんの価値もなくなってしまう。星野のことを「青猫」だと気づいた蓮見は彼の苦しみを全て理解し、その苦しみから彼を解放するために刺したのだ。そして物語は久野の美しいピアノの音で終わる、しかし彼らの日常はこれかも続いていくわけで。あのエンディングはそういうことを描きたかったのかなと思いました。

 

自分をこの映画に重ねると、暴行を受けたにも関わらず頭を丸坊主にして星野への抵抗をみせた久野。久野の強さをみて自ら死を選んだ津野。この二人の女の子のような強さは14歳のとき自分は持ち合わせていなかった。もし中学生のときにこの映画に出会えていたら少しでも現状を変えられたかな、と自分の中学時代を振り返ってしまいます。

 

14歳のリアル。岩井俊二監督の先見性はさすがだ、と日々のニュースをみて思います。美しい田園風景、Salyuさんの歌声、ピアノの音。どこまでも美しい映像美。そこにあるのは閉鎖的な学校、田舎。こんなに美しい地獄はほかにはないと思う。なんとなくこの映画に救われた気がしました。